高清水の蔵だより

雪降る夜に酛すりの唄2

2020年01月04日

〇酒のお化粧

一時、黄金時代を招来した酒造りも、戦争が始まってからはいっぺんにダメになった。原料米の統制もやむを得ないことではあったが、戦前の1、2割の造石高では杜氏といえどもうまい酒は飲めなかった。戦後も米の不足を補う意味で、アルコールが配給になり、ついで味の素、琥珀酸、葡萄糖などを添加する3倍増醸というものが出て来て、一時はまごついたが、やってみれば何のことはない、かえって楽になったようにも思われる。

酒を飲む方の側も戦後はよほど変って来たようだ。たまにはコクの強い、アルコールを含まない戦前の酒をなつかしむ人もいるが、一般には、いつの間にか甘味のある薄味のアルコール酒に舌を慣らされて、突然昔のような酒を出されたら、かえって飲みづらく感ずるのではなかろうか。なんといっても酒にも時代色、地方色というものがあって、それに各自の好みもあるので、一概には申されない。昨今、日本酒にも洋酒と同じように、食前酒、食間酒、食後酒の区別があっていいのではないかとのお説もあるそうだが、お刺身用、トンカツ用の区別も面白いが、それは私らにもちょっと手が回りかねる。お好みによっては出来ぬこともあるまいが、それは次代のお若い方々にお願いしたいと思っている。

品評会の優等酒も、酒自体の良否はもちろんだが、正直のところ、これも酒のお化粧とでもいうべき出品技術というものがあって、こういう手数のかかった酒はなかなか一般市場に出回らぬ。ひところは5割、6割と精白したほか、活性炭素を猛烈に使用した時期があったが、昨今は原料米の不足もあってこの行過ぎは、よほど是正され、市販酒に近い良好なものが優位に入賞するようになったのは、造る方にも飲む方にも喜ぶべきことであろう。

何にしても、酒造りの方法も一応安定し、そのうち革命的な醸造法でも出来れば別だが、全国どこへ行っても、品質にあまり優劣のない、平均された酒の出来る日も近いだろう。

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